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『心地よさと健康をつくる、住まいのちから』〈未来を守る住まい編〉

レポート
慶應義塾大学名誉教授 伊香賀俊治氏に聞く 断熱リフォームが子どもと家族の健康な未来を守る住まい特集ビジュアル

💡はじめに

近年、「住まいの性能」、特に“断熱性”が私たちの健康にどんな影響を与えるのかに注目が集まっています。2025年4月から新築住宅には省エネ基準適合が義務化されますが、既存住宅の断熱改修への理解は進んでいないのが現状です。

前編では、医学と建築の両面から研究を行う慶應義塾大学 名誉教授 伊香賀 俊治 氏(以下、伊香賀名誉教授と表記します)のお話から、普段あまり意識しない「家の中の寒さ」が、実は私たちの健康と密接につながっていることに改めて目を向けました。

特に、寒冷地よりも温暖な地域の方が家の中が冷えてしまうという意外な実態や、お風呂場でのヒヤリとする事故、避難所での寒さが体調に影響するケースなど、毎日の暮らしを見つめ直すヒントをご紹介しました。

後編ではさらに踏み込んで、「あたたかい住まい」が世代を超えてどのような健康効果をもたらすのか、伊香賀名誉教授の研究結果をもとにお伝えしていきます。

お話しいただいた方

慶應義塾大学名誉教授で住環境と健康の研究を行う伊香賀俊治氏のポートレート
慶應義塾大学 名誉教授 伊香賀 俊治 氏

「あたたかい家」が、健康診断の結果を変える?

日本の住宅における温熱環境の深刻な実態とそれが引き起こす健康被害などの問題を受けて、2014年度より実施されたのが伊香賀名誉教授も参加された「スマートウェルネス住宅等推進調査事業」です。

家の断熱性能がどれだけ健康に影響しているのか。まずは断熱改修前の住宅で、温度や湿度、居住者の家庭血圧、身体活動量、健康診断などのデータを収集。その後、断熱改修を実施した後のデータと比較することで、断熱改修がもたらす具体的な健康改善効果が次々と明らかになりました。

WHOが推奨する冬季室温18℃以上を基準に断熱改修前後の住環境と健康影響を比較した調査概要図

たった3.1mmHgの血圧低下で年間15,000人の命が救える

まず、住宅の断熱改修前後調査で注目したいのが、室温と血圧の関係です。断熱改修によって平均3.1mmHgの血圧低下が見られ、脳卒中や心筋梗塞等への影響も明らかになりました。

伊香賀名誉教授:健康日本21の第二次計画では、日本人の最高血圧を平均4mmHg低下できたとすると、脳卒中で年間1万人、冠動脈疾患で年間5,000人、合計1万5000人の命が救えると試算されています。

断熱改修により居住者の最高血圧が平均3.1mmHg低下し高齢者や高血圧患者で効果が大きいことを示すグラフ

また、18℃未満の家に住むことで、悪玉コレステロールの基準値を超える人が約1.7倍、心電図の異常所見が見られる人も約1.8〜2.2倍に増加することが明らかになっています。 「ちょっと寒いな」と感じる程度でも、実は体にとってはじわじわと負担になっているんです。

伊香賀名誉教授:今後はエビデンスのさらなる充実により、健診時に医師から部屋を暖かくするという助言が出るようになってほしいと考えています。

室温18℃未満の住宅では悪玉コレステロールや心電図異常のリスクが有意に高まることを示す比較データ

医療費・介護費の3割は”家の寒さ”が原因

日本の医療費・介護費は年々増加の一途をたどり、このままでは制度の破綻すら懸念される状況です。実は、この深刻な問題に対しても、住宅の断熱性能が一つの解決策となる可能性が示されています。

伊香賀名誉教授:昨年9月、イギリスの医学誌に重要な論文が掲載されました。要介護の要因や医療費の内訳を分析すると、家の寒さに起因する病気が3割近くを占めているのです。

医療費と介護費の増加要因の多くを循環器疾患が占め住宅の寒さが大きく影響していることを示す推計図

寒さで血圧が上がったり、心臓に負担がかかったり、転倒してケガをしたり…。
普段は見えていないところで、少しずつ“健康維持のためのコスト”が積み上がっているのです。

暖かい家での暮らしは健康寿命の延伸につながる

家のあたたかさには、「断熱等級」という目安があります。数字が大きいほど、外の寒さや暑さを家の中に伝えにくくなり、冷暖房の効きもぐんと良くなります

等級暮らしのイメージ室温の目安
等級1〜2昔ながらのおうち。暖房をつけても足元が冷たい部屋によっては10℃台になることも
等級3〜4一応あたたかいけど、場所によってムラがある廊下や脱衣所はヒヤッとしやすい
等級6家じゅうがふんわりあたたかく、快適室温18℃以上を安定してキープしやすい

医療費・介護費の3割は”家の寒さ”が原因という発見を基に、さまざまなシナリオでの費用対効果が検証されました。新築時の断熱等級の違いや、60歳での断熱リフォームなど、複数のパターンで比較検討が行われています。

その結果、断熱等級6相当で新築した場合、生涯費用が抑えられ、健康寿命も半年延びることが分かりました。健康寿命を1年延ばすのにかかる生涯費用(建築工事費・冷暖房費・医療費などすべて含めた費用)は177万円で済むそうです。

伊香賀名誉教授:60歳で断熱改修をするケースでも、断熱等級6まで性能を上げるのが最も効果的です。健康寿命を1年伸ばすのに300万円で済みます。厚生労働省によると500万円以下であれば費用対効果が高いとされており、十分な投資効果が期待できます。

断熱等級を高めた住宅ほど健康寿命が延び費用対効果にも優れることを示したシミュレーション結果

5年追跡調査で見えてきた長期的な効果

断熱改修後5年間の追跡調査からは、長期的な健康への好影響も見えてきました。

伊香賀名誉教授:改修から5年後を見ると、改修をしなかった人に比べて、さまざまな健康指標で大きな差が出ています。血圧の上昇は半分に抑えられ、脂質異常症の発症は3割夜間頻尿は4割に減少。家の中での転倒に関しても、足元まで18℃以上に改善された家では4割に抑えられました。

断熱改修後5年間の追跡調査で血圧上昇や転倒リスク夜間頻尿が大きく抑制されたことを示す結果

子どもの風邪から女性のPMSまで!世代を超えた健康改善効果

子どもから高齢者までを対象とした最新の調査からは、さらに興味深い発見が報告されています。足元の室温が18℃をクリアする断熱等級5以上の家では、子どもの風邪や病欠が統計的に有意に減少することが分かりました。

また、冬の湿度管理も重要で、湿度が低すぎても高すぎても中耳炎のリスクが高まってしまいます。 足元と非居室の温度が18℃以上の住宅では、PMSの症状が有意に少なくなります。また、肩こりや腰痛、手足の冷えを訴える人も3割に抑えられることが確認できました。

・子どもの風邪や病欠が減る
・湿度をきちんと保てることで、中耳炎のリスクも減少
・女性特有のPMS(月経前症候群)や冷え、肩こり・腰痛も、3割ほど軽減する傾向

室温18℃以上の住まいでは子どもの風邪や病欠が約4割減少し、湿度40〜60%の環境では中耳炎の発症リスクが低いことを示す研究データ
室温18℃以上を保つ住まいで子どもの風邪や病欠女性のPMSや冷え症状が有意に減少することを示すデータ

たった2℃の温度差で要介護期間が3年短縮

そして衝撃的だったのは、要介護認定を受けた在宅の方々への調査結果です。わずかな室温の違いが、人生の質を大きく左右する可能性が明らかになりました。

伊香賀名誉教授:室温が15℃と17℃、たった2℃の違いで要介護認定を受ける年齢に約3年の差が出ることが分かりました。3年の差は、介護の自己負担額で年間300万円もの違いになります。定年後のタイミングで断熱リフォームを行っても、しっかりと元が取れるでしょう。

冬の室温が2℃高い住まいでは要介護認定年齢が約3年遅れることを示す調査結果

対談を終えて

🌿まとめ:未来の健康を守る“あたたかい住まい”

健康寿命が延びる。医療費や介護費が減る。子どもも高齢の方も、毎日をもっと気持ちよく過ごせる。

住宅の断熱性能の向上、つまり「あたたかい家」に住むことは、単なる省エネ対策ではありません。むしろ、深刻化する医療・介護の課題に対する、極めて有効な解決策の一つと言えるでしょう。まさに、未来を守る住まいとも言えるのではないでしょうか。

これまで「高血圧=生活習慣病」と言われてきたように、体調をくずす原因は食生活や運動不足にあると思われがちですが、実は“住まいの環境”も、大切な健康の土台

これからは、“生活環境病”という新しい視点も持ちながら、住まいができることを、もっと暮らしに活かしていきたいですね。

私たち住宅事業者は、家を建てるだけでなく、心地よく、健やかに暮らせる未来づくりのお手伝いをしているのかもしれません。

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